どこまでも、聲、響き、





轟、と

犬が何処かで喚く。叫く。

轟、と



ある晩のこと。











さよなら、女は長い黒髪を切り、去っていく。











切り落された黒髪は床に散らばり、男は瞠目した。

女は目を伏せ、ごめんなさい、と泣く。

あなたの好きな黒髪は在りませぬ、だから、私に暇を頂きたいのです。

赤い柄の多い、上質な着物が、す、と音を立てた。

意識を戻せば、そこには膝を付き、頭を下げている女が居た。

好いた長い黒髪は散らばっている。

手の中に掴み残っていた髪が、すと、床に落ちた。











嗚呼、女は甘美なる声を上げた。

涙を浮かべよがった。

男は女を抱いては言った。

お前の黒髪は酷く美しいな。

情事のあと、女は何も言わなずに泣いた。

男は、その黒髪を見つめ、触れては口付けを落していた。











次の年、女は死んだらしい。

犬に喉元を噛まれて死んだと聞いた。











どこまでも薄情な、と男は言った。






(200612)

黒髪の女を狙う事件が昔在ったな、と思い出した。



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