H2O





どうせなら、僕は一度水に溶けてしまいたい。

水素と酸素で構成されるそれらは、きっと酷く重度の高い、たゞの記号だ。

音が無音と化すことは無い。

それは人が存在し地球が地球であり、惑星が惑星で有る限り無いだろう。



呼吸を止めても心音は続く。

体が呼吸を止めれば、物体となる。

火に朽ち、土に眠る。眠る、蟲と共に。



其処には、一粒の小さな星屑が入っているよと。

期待に胸を膨らませ、筺を開けば、ただの石屑。

光輝く、空にチル星々を思い描いていた。

それは、たゞの幻想でしかなかったと思い知る。

人生も又しかり。

箱を開ければ、其処には色無き、コンクリートの平坦。

そして、綻び風化したコンクリートが、ごとりと音を立てる。



必死に足を前へ繰り出す。

それが生きる全て、死ぬまでの全てだ。

知ったのは、暗闇の中での孤独と絶望。

知ったのは、光有る空。雨落とす雲、そして、見せぬ、風だ。

ただ、生きる為に、死ぬ為に、足掻き続けなければならない。

失う物ばかり、それらを乞い続けながらも、それらを掻き集める事は出来ない。

しては、ならない、タブー。



駆け出して其れ等を求めたヒトを、警官が取り囲む。

押さえ込み、米神に小さな拳銃を当て、自ら自らの命を絶つように、耳元で囁く。

何故、と目を開いたヒトに、警官は嗤う。

自らの罪をどうして、他人に裁かせる?

目を伏せて、そのヒトはその小さな引き金を引く。

ヒトは、警官に拍手を送られ、消えた。

小さく、ぽちゃり、と水音がした。



警官が路を砕いている音が反響する。

ヒトの喪を、冥福を知らせるよう、反響し、何処までも響く。

だが、世界は、無情に、それを遮断する。

隣の路を歩く、ヒトが其れを知るだけ。

さようならと、一言、罪を負って、自らの過去に縋ったヒトに送る。



後ろから、足音が聞こえる。

引き摺るように歩いていた僕を追い立てに来たのか?

這い蹲り、嗚咽を上げる人影が先に見える。

選択の道が有るのか。

後ろから聞こえた足音は僕を追い越して、駆けて行く。見知った後ろ姿。

静音。

無音。

一つ、重い足を引き摺る。

たゞ、終りの見えぬ、終りを乞いながら、先へ行くしかない。








(200701)

それでも、忘れられない過去があるのに。



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