柩に眠る華を抱きしめて啜り泣く羊





白い、棺の中に、一つの硝子瓶。

少女はその瓶に手を伸しては、触れずにその棺から離れていく。

まるで日課。

毎日訪れ、誰か毎度違う女性に連れられ去っていく、小さな足音。


知っていたのが、嘘か、否、そうではない。

本当の所、嘘以外の真実を知らない。


雲が流れているのが星の吹く溜息だと誰かが言っていたのを聞いた。

瓶は時折、冷たく、ひやりと世界を歪ませ映した。

半透明の硝子が感じさせたのは、冷たい肌に流れる温度だった。

見えるのは歪んだ闇雲な色彩。

回る目を閉じ、肌で耳で呼吸で、そうして生きる事にしたある日。


久遠にも感じられる永き日々でさえ、其れを知るのに時間が足りなかった。

動かぬ躰へ、細い入り口から入り込む冷たい冷気を取り入れる。

ただの呼吸は其れで足りた。

そこで目覚め、抜け出すことが出来ぬ侭、出る事など出来ず。

次第に、意識は鮮明に、気付けば、入り口であった場所が、ただの空洞になっていた。


意識はどこまでも鮮明に在った。


あの子供に悪気があったのか、なかったのかは知らぬ。

それは知れない。

そもそも、あれが子供であったのかすら知らない。

昔の記憶を呼び覚ましても、今の知識で確認出来る程、覚えては居なかった。






「ねぇ、mam、この白い子、私のお友達なの」






ただ、私は闇雲に動く事もせず、その事実に甘んじていた。

呼吸が落着いて、静寂が訪れる、その刻まで、見える世界の音と、声と、

呼吸と、世界の鼓動と、あの少女が訪れる足音を聞いている。

日々が落着いて、私が知る事の出来ない時間を彼女達は動いていた。








(2007)

ハイ、ハニー。時間とは酷く臆病に進むね。


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